マンガン鉱石
岩石写真1 ピンク色のマンガン鉱石。横約5㎝、高さ4㎝。北海道南部にて採集。
それぞれの土地には、特産とも言うべき岩石や鉱物があります。
それは何百万年、ときに何億年というスケールの土地の歴史に因るものですが、
北海道南西部では、写真1のようなマンガン鉱石がそれに当たるかもしれません。
実際、過去に採掘されていたマンガン鉱山の多くはこの地方にあり、
上国鉱山、稲倉石鉱山、大江鉱山などは代表的な鉱山であると共に、
美しい鉱物標本の産地として知られています。
稲倉石か大江か忘れましたが、インカローズ、積丹ルビー、積丹ローズと言った名で
宝石としても売られており、なかなかの値段のようです。
写真2 写真1の鉱石を1面だけ研磨したもの。写真が悪いので
判りにくいですが、鏡面仕上げしているので、実物は
もう少し綺麗に見えます。
写真2は写真1の鉱石を鏡面になるまで磨いたものです。
白く透明な部分は石英(quartz)、ピンク色の半透明な部分が、
おそらくバラ輝石(rhodonite/ロードナイト、MnSiO3)です。
おそらくと書いたのは、pyroxmangite/パイロキシマンジャイト(日本語は判りません)
という、非常にバラ輝石と良く似た鉱物が一緒に産出するからです。
このパイロキシマンジャイト、組成はMnSiO3、結晶系は三斜晶系と、
実はバラ輝石と同じで、それ故に非常に見分け難い鉱物です。
何が違うかというと、生成する温度が違うようで、
パイロキシマンジャイトは高温相、バラ輝石は低温相のようです。
見分けるためにはユニバーサルステージという特殊な装置を用いた熟練の観察技術や、
X線分析などの精密分析が必要になります。
一部インターネット上ではこれらの鉱物は共生しないとも書かれておりますが、
この鉱石を研究していた学生が、多分バラ輝石だろうけどハッキリとは判らない
と言っていたので、そのように書きました。
最初に書いたように、これらの鉱石は比較的手に入り易いです。とはいえ、
素人では正確な場所や知識、マナーなど気を付けなければいけないことも結構あります。
簡単な方法としては、大学や博物館で時々行われる、鉱石の採集ツアーに参加するというものがあります。
札幌では今年もいくつか採集会があるようですので、興味があったら是非参加してみて下さい。
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薄片について
手法・道具など
以前、薄片と研磨片というタイトルでいろいろと説明しましたが、
言葉だけでは想像しにくいと思いますので、実物をお見せしながら改めて説明します。
薄片とは主に観察・分析用に、岩石を薄く加工してスライドガラスに貼り付けたものです。
観察とは、岩石用顕微鏡を用いて、岩石を構成する鉱物を鑑定することをメイン目的とします。
鉱物の種類や様子を観察することで、岩石の種類、その生成条件などを推測することが出来ます。
分析とは、概ね組成分析のことです。岩石全体の化学組成を分析したり、
鉱物1つ1つの化学組成を分析したりします。
一般的には厚さ0.03mmです。髪の毛が0.05~0.1mm、普通のコピー用紙で
0.09mmらしいですが、どのくらいの厚さか想像が付くでしょうか?
写真1 縦2㎝、横3㎝、厚さ1㎝ほどの岩石切片。
薄片の作り方としては、
はじめに、写真1のようにある程度の大きさの岩石切片を作ります。
次に、面の1つを適度に磨き上げ、スライドガラスに樹脂で接着します。
接着したら、そのまま厚さ1mm程になるようにカットし、
そこから上記の厚さまで薄くしていきます。
この一連の作業は、普通学部生の時から習い始めますが、
巧く出来るようになるには何年も練習が必要になる、職人技です。
岩石カッターや、研磨盤など、ちょっとご家庭では揃えるのが難しい道具を使います。
そのうちこれらの道具も紹介しつつ、より詳しい製作工程を掲載したいと思います。
写真2 写真1に挙げた岩石を使った薄片の完成品。
写真2が実際の薄片です。切片の状態ではただの黒い塊でしたが、
薄片にすると所々透明になっているところが見てとれます。
透明になっていない黒っぽい部分も、顕微鏡下で見ると、
ほとんどが透明になっています。この薄片を、偏光顕微鏡と言われる
少し特殊な顕微鏡を使って、観察します。
写真3 写真2の薄片を顕微鏡下で観察した様子。Qtz:Quartz(石英),
Pl:Plagioclase(斜長石),Hbl:Hornblende(普通角閃石),
Bt:Biotite(黒雲母)
実際に薄片を顕微鏡で見ると、写真3のように見えます。
左は、偏光板と呼ばれるフィルターを1枚通して見た様子、
右は、フィルターを2枚通して見た様子です。
この偏光板を通すことで、それぞれの鉱物が持つ光学的な性質、
例えば色、形、光の屈折率などを観察することができ、
肉眼で見ても判らない鉱物を同定することが出来ます。
薄片は、光を通す鉱物で無ければあまり作る意味がありません。
光を通さない鉱物、例えば金属鉱物などは、別の方法で観察します。
そちらはまた後日、紹介したいと思います。
言葉だけでは想像しにくいと思いますので、実物をお見せしながら改めて説明します。
薄片とは主に観察・分析用に、岩石を薄く加工してスライドガラスに貼り付けたものです。
観察とは、岩石用顕微鏡を用いて、岩石を構成する鉱物を鑑定することをメイン目的とします。
鉱物の種類や様子を観察することで、岩石の種類、その生成条件などを推測することが出来ます。
分析とは、概ね組成分析のことです。岩石全体の化学組成を分析したり、
鉱物1つ1つの化学組成を分析したりします。
一般的には厚さ0.03mmです。髪の毛が0.05~0.1mm、普通のコピー用紙で
0.09mmらしいですが、どのくらいの厚さか想像が付くでしょうか?
写真1 縦2㎝、横3㎝、厚さ1㎝ほどの岩石切片。
薄片の作り方としては、
はじめに、写真1のようにある程度の大きさの岩石切片を作ります。
次に、面の1つを適度に磨き上げ、スライドガラスに樹脂で接着します。
接着したら、そのまま厚さ1mm程になるようにカットし、
そこから上記の厚さまで薄くしていきます。
この一連の作業は、普通学部生の時から習い始めますが、
巧く出来るようになるには何年も練習が必要になる、職人技です。
岩石カッターや、研磨盤など、ちょっとご家庭では揃えるのが難しい道具を使います。
そのうちこれらの道具も紹介しつつ、より詳しい製作工程を掲載したいと思います。
写真2 写真1に挙げた岩石を使った薄片の完成品。
写真2が実際の薄片です。切片の状態ではただの黒い塊でしたが、
薄片にすると所々透明になっているところが見てとれます。
透明になっていない黒っぽい部分も、顕微鏡下で見ると、
ほとんどが透明になっています。この薄片を、偏光顕微鏡と言われる
少し特殊な顕微鏡を使って、観察します。
写真3 写真2の薄片を顕微鏡下で観察した様子。Qtz:Quartz(石英),
Pl:Plagioclase(斜長石),Hbl:Hornblende(普通角閃石),
Bt:Biotite(黒雲母)
実際に薄片を顕微鏡で見ると、写真3のように見えます。
左は、偏光板と呼ばれるフィルターを1枚通して見た様子、
右は、フィルターを2枚通して見た様子です。
この偏光板を通すことで、それぞれの鉱物が持つ光学的な性質、
例えば色、形、光の屈折率などを観察することができ、
肉眼で見ても判らない鉱物を同定することが出来ます。
薄片は、光を通す鉱物で無ければあまり作る意味がありません。
光を通さない鉱物、例えば金属鉱物などは、別の方法で観察します。
そちらはまた後日、紹介したいと思います。
国立スミソニアン博物館/Smithsonian Museum
雑談写真1 ワシントンDCにあるスミソニアン博物館群の1つ、自然史博物館。
先日、スミソニアン博物館の写真を紹介しました。
世界に名立たる博物館だけあって、博物館の数、大きさに圧倒され、
収蔵品数に圧倒され、展示品数に圧倒されます。それでいて入館料無料です。
さらに、写真撮影も自由です。
どこか1つ、お薦めの博物館を挙げろと言われたら、
多くの人が、候補の筆頭に挙げる可能性は高いでしょう。
ワシントンDCにはスミソニアンの他にも多数の博物館や美術館があり、
それらも含めて、私もお薦めします。
スミソニアン博物館は全部で19あるそうですが、そのうち9つが
ナショナル・モールと呼ばれる大通りにあります。
以前、1週間ほどこれらを見て回りましたが、まるで時間が足りませんでした。
今日は、1週間の内、2日半を使った自然史博物館(写真1)をさわりだけ紹介します。
写真2 自然史博物館のエントランスホールに鎮座する象さん。
自然史博物館の展示物は岩石、鉱物、隕石、化石、動物などがメインです。
エントランスホールでは象の剥製がお出迎えしてくれます(写真2)。
化石コーナーでは迫力のティラノサウルスやトリケラトプスが、
鉱物コーナーでは世界最大のブルーダイヤモンド、ホープダイヤ(写真3)が
各コーナーの主として華々しく展示されています。
写真3 世界最大のブルーダイヤモンド、ホープダイヤモンド。色々な曰くが囁かれている。
印象としては岩石、鉱物系が多く(展示品は定期的に入れ替わるので、常にそうかは判りません)、
上記のダイヤを始め様々な宝石、宝石の原石、鉱物、隕石を見ることが出来ます。
また、化石コーナーには恐竜だけではなく新生代の動物やストロマトライトなど植物の化石もあり、
それらの化石を学芸員がクリーニングしている様子も見ることが出来ます。
写真4 ミュージアムカフェにて。ピザとサラダと謎のお菓子。
大きな博物館では展示コーナーだけではなく、ミュージアムショップや
ミュージアムカフェが併設されている所が多くあります。
もちろん自然史博物館にもあり、長時間見てまわっても楽しめるようになっています。
ミュージアムカフェではバイキング形式になっており、
値段もそれほど高くなく入りやすくなっています。
また、ミュージアムショップでは、博物館らしく図鑑や鉱物標本なども並んでおり、
日本で買うより格段に安い標本もあります。
いかがでしたでしょうか。
今回はさわりで、具体的な内容は紹介しませんでした。
なにせ、2日半に渡って撮影した数千枚の写真があるのです。
今後また、少しずつ紹介していきたいと思います。
方解石(カルサイト)/Calcite
鉱物
最初の方は、皆知っていて綺麗な鉱物から紹介していこうと思っています。
掴み、というやつです。
石英(水晶)でも宝石でも良かったのですが、すぐに用意できた写真の都合で、
方解石(calcite)が選ばれました。
写真1 文字の上に置くと二重に見えることで有名な、方解石(calcite)。
方解石は英語で書くとcalcite(カルサイト)、炭酸カルシウム(CaCO3)の結晶です。
デパートやビルなどで、大理石として使われているものを見たこともあるかと思います。
また、気付き難いところでは、消しゴムや歯磨き粉、医薬品にも入っていることが有る、
最も身近な鉱物の1つと言えるでしょう。
日本が海外へ輸出することが出来る数少ない鉱物資源でもあります。
そんな、名実ともに身近な方解石ですが、宝石として磨かれることはほとんどありません。
モース硬度3と傷つき易く、結晶構造的に割れ易く、さらに酸にも弱いためです。
残念ながら、岩石としてならともかく、写真1のような結晶を磨いたことは私もありません。
しかし、方解石の宝石が全く無いというわけでは無いので、ある所の方解石を紹介いたします。
写真2 カットして磨かれた方解石。スミソニアン博物館の自然史博物館にて撮影。
写真2はアメリカ国立自然史博物館で展示されている方解石です。左の写真は1865カラット
と表示されており、非常に巨大な宝石となっています。とても身に着けられる大きさではありません。
右の写真の左の方解石は、鉱物の持つ結晶の形に沿って磨いたのでしょうか、菱形をしています。
写真3 ブラウンカラーをした方解石の宝石。自然史博物館にて撮影。
白色のものばかりではありません。写真3はブラウンの色が付いた方解石が磨かれています。
流石はスミソニアン博物館と言うべきか、どの方解石も大きさが尋常ではありません。
方解石は比較的採集しやすい鉱物とはいえ、透明度の高い結晶はなかなか手に入りません。
そのうち、写真1くらいの透明度を持つもう一回りか二回り大きなサイズの結晶が手に入ったら、
それを磨いて行く過程を、紹介出来れば良いなと思います。
掴み、というやつです。
石英(水晶)でも宝石でも良かったのですが、すぐに用意できた写真の都合で、
方解石(calcite)が選ばれました。
写真1 文字の上に置くと二重に見えることで有名な、方解石(calcite)。
方解石は英語で書くとcalcite(カルサイト)、炭酸カルシウム(CaCO3)の結晶です。
デパートやビルなどで、大理石として使われているものを見たこともあるかと思います。
また、気付き難いところでは、消しゴムや歯磨き粉、医薬品にも入っていることが有る、
最も身近な鉱物の1つと言えるでしょう。
日本が海外へ輸出することが出来る数少ない鉱物資源でもあります。
そんな、名実ともに身近な方解石ですが、宝石として磨かれることはほとんどありません。
モース硬度3と傷つき易く、結晶構造的に割れ易く、さらに酸にも弱いためです。
残念ながら、岩石としてならともかく、写真1のような結晶を磨いたことは私もありません。
しかし、方解石の宝石が全く無いというわけでは無いので、ある所の方解石を紹介いたします。
写真2 カットして磨かれた方解石。スミソニアン博物館の自然史博物館にて撮影。
写真2はアメリカ国立自然史博物館で展示されている方解石です。左の写真は1865カラット
と表示されており、非常に巨大な宝石となっています。とても身に着けられる大きさではありません。
右の写真の左の方解石は、鉱物の持つ結晶の形に沿って磨いたのでしょうか、菱形をしています。
写真3 ブラウンカラーをした方解石の宝石。自然史博物館にて撮影。
白色のものばかりではありません。写真3はブラウンの色が付いた方解石が磨かれています。
流石はスミソニアン博物館と言うべきか、どの方解石も大きさが尋常ではありません。
方解石は比較的採集しやすい鉱物とはいえ、透明度の高い結晶はなかなか手に入りません。
そのうち、写真1くらいの透明度を持つもう一回りか二回り大きなサイズの結晶が手に入ったら、
それを磨いて行く過程を、紹介出来れば良いなと思います。
補足説明~岩石について~
雑談写真 なんの変哲もない岩石。
おそらく、岩石に関わる研究をしている人たちの多くは、
岩石のことを「岩」や「石」とは言いません。学術的な用語ではないからです。
(余談ですが、タイトルに「石」が使われているのは、単に語呂の問題です。)
細かいことですが、今後、そのような言い回しがたびたび出てくると思います。
一般向けブログなのだから、一般向けの表現にすれば良いという考え方も出来ますが、
ここでは可能な限り両方使いたいと思います。
なぜなら、ほとんどの専門用語は判りにくいですが定義付けが明確で、
誰が使っても同じ意味になる利点があり、一般用語は判りやすいですが、
人によって取る意味が異なるかもしれない欠点があるためです。
記事が増えてくると、本文で説明し忘れた、とか説明を入れると長くなる、
などの理由でなんの説明もない専門用語がそのまま放置される可能性があります。
その補足のため、時々このような場を設けたいと思います。
写真 5cmほどの煙水晶(smoky quartz)。
今回は、最初に例に挙げた「岩石」について補足します。
まあ、ウィキペディアなどを見て頂ければ済む簡単な話なのですが。
岩石は、鉱物の集合体です。岩と石の違いはサイズだけだと思われます。
上の写真は、様々な鉱物が集まって1つの物体になっている岩石、
下の写真は、1つの鉱物です。
鉱物の定義はやや難解で、結構例外はありますが、
天然に産するもので、化学組成が一定の無機質結晶の固体と言われています。
写真の例なら、スリランカ産のほぼ一定なSiO2の結晶の固体、で石英(水晶)という鉱物です。
宝石や貴石など、見て綺麗だと思うものは大体、鉱物です。
しかし当ブログは一見綺麗ではないものでも、磨いて綺麗にしてしまおう
という目的があるので、当然岩石もおおいに登場します。
また、当ブログでは頻繁に「鉱石」という単語が出てきます。
鉱石は岩石の一種で、有用なもの(お金になるもの)を言います。
鉱物を指すこともありますが、普通は岩石として扱われます。
鉱物を指すときは鉱石鉱物と分けて使うことが多いようです。
「岩石」「鉱物」「鉱石」
この3つの単語は今後頻繁に出てくるので、
その違いをきちんと覚えて頂けると、幸いです。
プロフィール
HN:
heliodor
性別:
男性
趣味:
石磨き他
自己紹介:
岩石・鉱物学を修めています。
研究とは別に、自ら採取したもの、買った物、廃棄物からの取得物を用い、石を磨いています。
研究とは別に、自ら採取したもの、買った物、廃棄物からの取得物を用い、石を磨いています。
P R